父と癌 

がんになった父の闘病生活の記録です

12.手術の同意と死の覚悟

ついに小さくなった腫瘍。

10%から20%に生存率を上げるため父は手術に挑みます。

2日前に入院。いろいろと準備があるようです。

周りにいるのは胃・膵臓・肝臓・胆嚢・大腸と消化器内科外科関係の患者様ばかりで勇気づけられたようです。

入院前にはパーキングでカツ丼とラーメンを食べてからの入院。

このカツ丼とラーメンが父にとって、4ヶ月もの間絶飲食になる前の最後の晩餐になりました。

手術への承諾書などいろいろと忙しい日をすごした父は、あっという間に手術前夜になっていました。

その時、主治医の先生からの呼び出し。

父と母は顔を見合わせたそうです。

呼ばれた部屋には主治医の先生、サブの先生、看護師長、担当看護師さんがいました。

主治医の言葉はこうでした。

”手術前日の夕方に申し訳ありませんが、手術を受けられますか?止められますか?止めてもいいんですよ。

最終確認です。手術を明日決行しますか?”

図体はでかい父です。我が家の大黒柱で、いつも笑顔で。

でも本当は誰よりも小さいハートの持ち主です。誰よりも怖がりで誰よりも泣き虫な父です。

だけどずっとずっと私達家族の前では頼りがいのある父でした。

主治医の言葉が耳に残ります。

そうなんです。

もしかしたらこの選択が明日手術中に死んでしまう可能性は大いにあるのです。

明日自分で自分の余命を経ってしまうことになるかもしれないのです。

”もし”もし手術しなければ・・・

”もし”失敗したら・・・

”もし・・・”という言葉が父の頭の中でくるくると回ります。

そんな悩みを断ち切るかのように横に居た母が答えます。

”先生、この人一回決めたらやりますから!よろしくお願いします!”

母の言葉に何度救われたかわかりません。

父の心の弱さは母が埋めます。

母の心の弱さは父が埋めます。

我が家の形です。

最高の嫁や!!と父はこのときのことを何度も思い返しては笑いながら話します。

死の覚悟は自分だけのものではありません。

父が1人で悩むことはありませんでした。

母が父と一緒にがんと戦うことを決めた一言だったのかもしれません。