父と癌 

がんになった父の闘病生活の記録です

15.歩くこと

手術後、父は3日で一般病棟へ。

7階だったのだが、ICUから見ると7階が我が家のように感じていた父は、見送ってくれた看護師さんたちと再開を果たす。

おかえり。お疲れ様。ってみんなが声をかけてくれた。

無料の個室を借りることができたので母も泊まり込みの日が続きます。

なれない腹部のストーマ

前回の手術後、歩くことで内蔵が元の位置に戻り腸の働きが良くなる。

そう思っていたからか、父は歩けない・車椅子の生活と言われていたにも関わらず、歩行訓練を開始し始める。

身体から飛び出す何本もの管。右脇腹・左腎臓・腸・小腸・なれないストーマ・点滴に・・・

あれ?歩けるんか?ふと自分の姿に疑問をいだいた。

ご飯も食べてない。水分もとっていない。

父は術後3日経って初めて今までしていた当たり前の行動を思い出した。

なんとか立ちたい。動きたい。

母がどっかから持ってきた歩行器につかまり、看護師さんにも忙しい中付き合ってもらう。

どうも足の感覚がない。

だけど”立つ”という行為をしようとできたことに父は嬉しかったようです。

歩けるようになれば、きっと早く帰れる。

そう思っていたのかもしれません。

母は感覚のない父の足を毎日毎日、何時間もマッサージし続けました。

父も毎日毎日、歩行器につかまり、自己流でリハビリを行いました。

看護師さんも本当に忙しい中、毎日毎日付き合ってくれました。

何週間も経った頃、父はまだ感覚のない、他人の足のように感じる自分の足を一歩、一歩と前にすすめることができた。

ゆっくりと”自分の足や”と言い聞かす。

震えながら、一歩一歩と前に進むことができた。

看護師さんが”歩けたよーー!!”

と病院内だというのに叫んでみんなに知らせてくれている。

それもまた嬉しい風景。

そして主治医の先生もきてくれ、ニコニコと笑い、”やったな”と言ってくれた。

父はこの時、久しぶりに心から笑う母の姿をみた。